遠山来由記/景友ノ餘事

遠山来由記 霧城記 岩村城 加藤氏 遠山氏 景友ノ餘事 遠山七頭 遠山分家 戦国記 岩村城主遞代次序 来由記序

ここでは異説を挙げて霧ヶ城の呼称と遠山家の家紋について左に弁説する。

当城は応仁 2 年 (1468年/室町) に景友が築いたとも伝えられている。これから述べるのものはその異説である。

桐中将

遠山城は桐加藤司景友が築いて最初の城守となった。また桐氏が創営する事から桐ヶ城と称する。

昔々、桐中将という一人の公卿が居り罪あってこの国に左遷させられた。ある日、とある民家 (言い伝えによれば山上村吏) に寄った。民家の住まいは汚らしく乱れていて貴人が座れるような場所もないため席の代わりに窓の格子戸を外して敷き座らせた。また食事を勧めるにも食器が整わず、新しい椀の上に箸2本を渡し木地の盆に据えて恭しくもてなした。

公卿はその厚い敬いに感激し、私はわびしい場所に流されたが今親切のこもったもてなしを受けた。この悦びを永く忘れず、親切を受けた食器の形を模して自らの紋としよう。主もその志厚きことおぼろでなく同じこれを紋せよ。もし私の子孫が相続するなら世々これを家紋として私の後に主の家と共にその由緒が久しい事の印としよう、と堅く誓った。これはその時の喜びを表すものである。

その後胤 (子孫) 景友の世に城を築き城守となった時に桐の加藤司と称し、また同じくこの紋を以て永く家の印とした。つまり遠山の城桐の加藤司とはまさにこの人物であって鎌倉時代の加藤次景廉を指すのではない。元よりそれとは別の家柄であると云々。

○景友ノ餘事 此中異説ヲ擧テ以辨ジ並ニキリガ城ノ呼称及遠山家紋ノ事ヲ辨説ス如左

相傳フ當城ハ是レ應仁二年戊子ニ景友築
之ト今謂應仁二年ハ景友卒大永四ヨリ計之凡ソ五十七年前ナ　　※1
リ年序杳ニ阻レリ恐ハ是頼景ノ時世ナルヘシ時代相應ノ故ニ
是異説ナリ今㪅ニ擧テ辨釋之セハ或ガ傳
説スラク遠山城ハ是レ桐加藤司景友築之
始城守ス桐氏ノ人創營スルガ故ニ亦タ
桐ガ城ト称ス曩時一人ノ公卿アリ桐
中将ト名ク事ニ坐セラレテ此國ニ左遷ス
而一日或民家ニ傳ル處ノ山上村吏ガ宅ナルベシ入給フ民家ノ
住居鬱挹取擾シテ貴人ヲ置ニ無地故ニ窻
ノ格子戸是竹ヲ割リ縦横シテ骨トシタル物ナラン農家多ハ用之如圖ヲ外シテ
敷之席トシ座セシム又進食ニ膳具モ整ザ
レバ新シキ椀ノ上ニ箸二本渡シ掛ケ木地
ノ盆ニ居ナドシテ出シ欽仰シテ管待時
ニ卿其ノ致敬ノ厚ヲ感悦有テ云ク我謫所
ノ侘シキニ今厚志ノ饗應ニ遇此悦永ク忘
ルマジ然バ親切ナル饗具ノ象ヲ模シテ自
ノ紋トセン主モ其志厚少縁ノ事ニ非ジ同
是ヲ紋トセヨ若我ガ子孫相續セバ世世是
ヲ家紋トシテ我後チ主ガ家倶ニ其由緒久
キコトノ印トセント堅ク契約アル是レ其
時ノ喜ヲ表スル也而メ後胤景友ノ世築城
ヲ自ラ城守スルニ至ツテ即桐ノ加藤司ト
稱シ又同ク此ニ紋ヲ以テ永ク家ノ印トス
然則遠山ノ城桐ノ加藤司トハ正ク是此人
ニシテ曾テ鎌倉時世ノ加藤次景廉ヲ指ス
ニ非ズ元ヨリ是事家別種ナリ云云

通説ではこの説は甚だ根拠のない話である。言い伝えの公卿が何者であるか、桐氏の名や種姓家系を探してみても該当する人物はいない。これが創作とする第一の理由。また桐氏という公卿が遠山荘に流され住んだという話も諸史で明らかな事ではなく、桐中将が左遷されたという俗説のみが存在するというだけでは証拠にならない。これが創作とする第二の理由。

景友が本当に桐卿の子孫であるとしても伝来の嗣続のいずれにもその名は一つも出てこず、范としてこれの証拠となる所はない。これが創作とする第三の理由。また年序で考えてみると景友以前には頼景が居る。景友が最初にこの城を築きこの家の元祖としたと言うならば頼景はどういう事であろうか。決して順序を乱してはいけない。これが創作とする第四の理由。

中世、鎌倉将軍の時代に既に判官景朝が居て遠山荘の領主となった事は前史 (東鑑、承久記等) で明らかである。なぜ景友を始祖とするのか。これが創作とする第五の理由。

その遠山城における近古の諸録の中に桐城という名目は見あたらない。何故軽率に桐城の話を作ったのだろうか。思うにこれは桐卿にこじつけて起きたものであろう。これが創作とする第六の理由。

もし本当に桐卿が居てその家へその姓を継ぐとなれば、諸社の棟札や遠山党自記の中に桐姓または桐城の言葉が出て来るはずである。しかしそのような所は一つもない。これが創作とする第七の理由。

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察するに、話に出る桐卿のような宰相中将が遠山荘に囚われた事を錯誤した者が居たのだろう。また民家での歓待については偶然か、あるいはその宰相中将が囚われとなってこの場所に来た時に最初に村吏の家に入ったかであろう。虜人といえども尊貴な人物である。農家も尊んで席を設け膳を提供したことから、中将もその敬意を感じてその席を席としその膳を膳として暫く休み慰安したか。

また中将はただの人ではなく刑場に臨んで大いに往生し奇跡を見せた。このため村吏がこれを追悼し食器の悦を感じ中将の遺意となればと手厚い追慕をもって自らの紋としたのか。

俗に伝わる桐中将の由縁は宰相中将の事であろう。歓待の器の由縁もまた同じである。しかし桐中将の話は土俗の語り伝えであって一つの裏付けもない。伝えによらないとすれば村吏の家の紋となった事もまた真実ではないと言える。これはその村吏が旧遠山領主に由緒があり常に親しく徃勤したため、城守から家紋を頂いたという説がもっともである。

また景友が霧ヶ城守であったことから霧の加藤司景友と呼ばれていたという話は、たまたま遠山の家紋がその歓待の器に似ていたことから桐中将の俗説にこじつけられ、桐中将の子孫として霧を桐に改めて桐加藤司と伝わったと考えられる。元々桐中将という人物は存在せず、またこの地へ流されたということもないとなれば根拠は既に無い。他に何があるだろうか。これはただ土俗のこじつけの創作話である。

ここでもう少し俗伝についての弁説を加えておく。

遠山家紋

遠山家紋について更に述べる。関ヶ原戦記を調べてみると、昔源頼朝公の時代に伊勢の加藤次景廉が濃州へ打ち越え居住す、子孫多くして七遠山に分かつ、皆大神宮を信仰して加棟木(カトウギ)を以て家の紋とす、と書かれている。この説はほとんど近い。加藤家の本国が勢州であるから神明 (天照大神) を尊信して神社の加棟木を模して家紋とするのはもっともな話である。これを紋に用いるときに丸の内に二つ引きとしたのである。

これを考えると、遠山家は桐氏にして景友を祖とし加藤次景廉の子孫ではなく元からこの異家別種であるとは何を証拠にしているのだろうか。遠山家が正にかの景廉の子孫である事は由緒があり道理も通っている。景廉は藤原氏である (東鑑)。遠山家もまたしかり (八幡棟札)。

また我が国の風俗では父祖の名をとって継ぐというのが昔からの常軌である。従って頼景などは皆祖先の一字を取って景の字を持っている。幾つか例を挙げれば昔の景朝は既に遠山左衛門といいまた大和守と称していた。同じく加藤遠山に属する人はみな左衛門の号を持っている。近代の頼景らもまた遠山左衛門と号しているし、最後の景任は大和守と称している。この様に姓名仮名実名は全てかの鎌倉時代の加藤遠山と合っているのに誰がこれを別種異家と言うのだろうか。判官景朝が遠山領主であったことは既に疑うべくもない。遠山家がその子孫でないなら何というのだろうか。

今考えてみると景友はまさしく頼景の家督でありその業を継ぐ者である。年代も次序も符合するためその加藤司と号するのは祖名を取る。またキリの名称は霧ヶ城守であるためにそう呼ばれたのである。このように景友は加藤遠山家の正統であるために景の字を取って名称するものである。それ以外の何者でもない。

さらに考えてみると、今の苗木についてこれは景友の子孫である。この家系では累代友の字を取って名乗っていることからもこの意味が分かるだろう。近古、景友から系譜を分けたため、嫡家 (霧ヶ城守景前) は今まで通り景の字を用い、庶族 (苗木主遠山氏) は友の字を通号としたのである。紋はともにその家に係るため、嫡家遠山城主は既に滅亡しているが、庶子家の苗木は現在も続いている。よって元のように家紋を二つ共に取り用いるものならんのみ。

加藤遠山の由来のような近代に伝わっているのは頼景以降の話である。頼景が生きていたのは今から二百数十余年前である。岩村城の事もすこぶる著明である。その逓代の次序は前述の通り。加藤次景廉がこの荘を領し築城したという話はいまだ東鑑などで明らかになって居ないが、金山記 (および遠山系、関原記等) に遠山主領の事が記されており、また判官景朝遠山荘の領知の事は東鑑および承久記などから明らかであって疑うべくもない。

つまり景廉が最初にこの城を築いたという話は未だその年月が明らかではないが実に由緒あることに見える。伝えに言う応仁2年築城とは創造ではなく再建と思われる。

更に述べると前述の金山記の話では加藤次景廉は当国 (美濃国) 東南四分を領し所領の地はすこぶる広大であったという。城累が無いわけがない。思うに元弘建武頃からこの家系はやや衰微し城累も損壊したことから応仁年間に領主がこれを再復修営したものであろう。

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古文書の翻訳: このページは遠山来由記を現代語に翻訳したものです。より正確な表現を知るためには原文を参照してください。文中の(小さな薄い文字)は訳註を表しています。

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